
鼻の内視鏡手術
鼻の内視鏡手術
下甲介粘膜焼灼術(レーザー治療・アルゴンガス凝固術)は、粘膜の反応を最小限に抑えて症状を軽減することを目的とした治療法です。約20年前から炭酸ガスレーザーなどを使用して粘膜を浅く焼く方法が採用されてきました。この焼灼処置により、焼かれた粘膜は約3〜4週間で新しい粘膜に生まれ変わり、抗原が侵入しにくく、腫れにくくなります。また、アレルギーに関連する細胞が減少するため、アレルギー症状が軽減することが期待されています。特にハウスダストに対しては、症状が手術前の半分以下に減少するケースが約80%あり、スギ花粉などの花粉症にも、ステロイド点鼻薬以上の効果が示されています。
この手術には危険性や後遺症がなく、痛みや出血もほとんどないため、日帰りで安全に受けることができます。手術は、局所麻酔として痛み止めの薬を染み込ませたガーゼを数枚鼻に入れるだけで、約15分程度で完了します。手術後、焼かれた部分は軽いやけど状態になり、最初の2〜3日間は鼻水が多く出ることがあります。また、術後しばらくはかさぶたが形成されます。特に最初の1週間はゼラチン状のかさぶたが付きますが、2週目には薄くなり、鼻の通りも改善され、4週間目にはほぼ元の粘膜が再生します。術後の痛みは軽度であり、鎮痛剤を服用するのは2〜3人に1人程度です。翌日以降、痛みが続くことはほとんどなく、出血も軽度で、2〜3日間鼻水に少量の血が混じる程度です。特別な処置は必要ありません。
アレルギー反応が鼻の粘膜で起こると、知覚神経を通じて下甲介から脳へ信号が送られ、くしゃみ発作を引き起こします。また、脳から下甲介に向かって分泌神経が信号を送り、鼻水を分泌させます。アレルギー性鼻炎では、これらの神経反応が過敏になり、軽い刺激でも過剰なくしゃみや鼻水が発生します。アレルギーがない場合でも、冷たい空気などの刺激でくしゃみや鼻水が出ることがあり、これを血管運動性鼻炎と言います。こうしたことから、数十年前には鼻水を分泌する神経を切断して鼻水を抑えようとする手術が行われていました。しかし、当時は内視鏡が使えず、歯茎を切って顔の骨を削る方法が取られていたため、体に対する負担が大きく、涙液分泌の神経も同時に切ってしまうため、眼の乾燥などの合併症が発生していました。これらの問題を解決する方法として考案されたのが後鼻神経切断術です。この方法では内視鏡を使って鼻の中で手術を行い、涙液分泌を担当する神経はそのままに、鼻水を分泌する神経とくしゃみを引き起こす神経を切断します。そのため、鼻水やくしゃみを効果的に抑えられ、体へのダメージも少なく、涙液分泌も保たれるという特徴があります。
手術の流れは次の通りです
1
下甲介の先端に切開を加えます。
2
下甲介の粘膜と骨を剥がします。
3
下甲介の骨を除去します。
4
後鼻神経と蝶口蓋動脈を超音波凝固装置を使って切断します。
この手術では、下甲介の骨を除去することで鼻腔が広がり、鼻づまりの改善にも効果があります。また、下甲介の粘膜下に瘢痕ができることでアレルギー反応が抑制され、粘膜表面にほとんど傷をつけないため、回復が早いという利点もあります。
手術の対象となるのは、レーザー手術やアルゴンガス凝固術では十分な効果が期待できない重度のアレルギーや下甲介の肥大などの構造的な問題がある患者です。この手術は全身麻酔で行い、入院は1泊2日です。手術後、鼻の機能や外見に悪影響が出ることはありません。
この手術は、粘膜や神経を切ったり剥がしたりすることなく、後鼻神経を低温で冷却して変性させる方法です。手術は局所麻酔で行い、粘膜の上から後鼻神経を数分間冷却するだけで済みます。両側で行っても5〜6分程度で終了し、出血や術後の腫れもほとんどなく、安全に実施できます。手術による合併症や機能障害もなく、後鼻神経は嗅覚とは別の神経であるため、嗅覚に対する影響もありません。小児や不安を感じる方の場合は、日帰りで全身麻酔を使用して行うことも可能です。
後鼻神経凍結手術では、神経を切断せずに冷却処理を行うため、確実性や効果の持続性という点では神経切断術に劣ることがありますが、軽度の症状や季節的な症状(例えば春先だけなど)に対しては十分な効果が期待できます。したがって、どちらの手術を選択するかは、病気の種類や重症度、入院の必要性、鼻の構造に問題があるかどうかなどによって異なります。
花粉症の代表的な原因であるスギ花粉は、毎年2~3月頃に飛散しますが、それ以外にも四季ごとに異なる花粉が飛びます。例えば、4月にはヒノキ、5~7月にはハルガヤやカモガヤ、オオアワガエリ、そして9~10月にはブタクサなどのキク科の花粉があります。治療方法としては、花粉の飛散時期に合わせてアレルギー薬(抗アレルギー剤や点鼻薬)を使用して症状を抑えることが基本ですが、症状が強い場合や薬によって日常生活が改善しない場合、また薬の長期間の服用を避けたい場合には手術を選択することがあります。
手術方法には、花粉の飛散開始の1~2ヶ月前に行う日帰り手術である下甲介焼灼術(レーザー手術やアルゴンガス凝固術)、症状が重度の場合に行う後鼻神経切断手術、さらに鼻の構造に問題がある場合には鼻中隔矯正術や粘膜下下鼻甲介骨切除術を組み合わせて行うことがあります。
手術の効果についてですが、花粉症は毎年、日によって花粉の量が異なるため、どんな手術をしても花粉が大量に飛んでいる日には完全に症状が出なくなるわけではありません。しかし、花粉の飛散量が少ない日には、薬を使わずに快適に過ごせることが多く、大量に花粉が飛ぶ日には一時的に薬を服用することで症状を抑えることができます。そのため、花粉症のシーズン中に服用しなければならない薬の量は少なくて済むことが多いです。
手術効果の持続期間は個人差があり、花粉への過敏度が低く、花粉の飛散量が少ない年には効果が数年続く場合もありますが、敏感な方や花粉の飛散が多い年には、翌年に再度手術を受けることを検討した方が良いこともあります。